俺は携帯を取り出した。
電子音が、俺独りだけの保健室に響き渡るのが悲しい旋律に聞こえる。
「すまない」
誰にともなく、俺は謝罪のことばを口にした。
不甲斐無い兄ですまない。
お前達を守ってあげられるような、そんな強い兄でなくて・・・・・・・・・・・・・・・・・傷付けてばかりで。
でも。
最後くらいは、兄らしく行動させてくれてもいいだろう?
自嘲気味に、俺は嗤った。
そして頬を、涙が静かに伝った。
不協和音 第拾奏
―虚ろな関係、涙の意味―
『もしもし?』
「・・・・・・・・・・・・・・清純。俺だ」
『ああ、誰かと思ったら聖だったの?』
白々しく清純は言った。
どうせ着信時の画面には俺の名前が出ていて、解っているくせに。
「契約を取り消したい」
俺は短く、それだけを告げた。
電話の向こうは相変わらずの音。
静かな筈だけど、どこかで響く不協和音。
清純の声は、無い。
『イイ、の?』
やっと聞こえてきた声は、ただ事務的に、かつ嘲笑のような響きを含ませてそう言った。
その言葉に、俺は一瞬躊躇した。
けれど自問自答して、何度も確かめてきた答えを探り当てる。
大丈夫だ。
俺は間違っていない。
最良の選択を、しているのだと。
それでも、溢れる涙は止まらない。
信じたいだけかもしれない。
『ねぇ、聖。本当にソレでイイの?』
清純の声が、楽しそうに弾む。
無邪気な子供のように、けれど、もう子供では無いが故に。
ソレは奇妙な感覚だけを残した。
歪に。
奇妙に
歪んだ。
捩れた
そんな『狂気』を。
そんな『物語』を
俺は頭を振って、その余計な考えを吹き飛ばそうと思った。
・・・・・・・・・・・・・・・結局、無理ではあったけれど。
「・・・・・・・・・ああ」
俺はもう、迷ったりしない。
この涙の意味を知ったから。
この涙の意味を悟ったから。
この涙の意味を・・・・・・・・・・・・・・
「契約は取消だ」
『そう』
あっさりと清純は言ってのけた。
今までの俺の苦労は何だったのだろうかと、そう問いたくなる位に。
軽い調子の声だった。
『じゃぁ、【】は俺がもらってイイってことだよね?』
「ああ」
出来るものなら。
この俺から奪ってみろ。
清純は楽しんでいるだけだ。
『俺』と言う名の玩具で、遊ぶ子供。
その『俺』と言う名の玩具を縛り付けておく為の鎖が、【】。
でも、ソレは一時凌ぎ。
清純が本当に欲しいのは、いつだって唯独り。
そう、唯独りだけ。
心も、髪も、爪も皮膚も眼球も内臓器官さえ奪い尽くしたい、一つになりたいと欲するのは。
だからこそ、【あの身体】には見向きもしなかった。
俺は何もかもを失う覚悟は出来た。
俺にとって、三人共大切な・・・・だった。
でも。
本当に、俺が一番大切に思っていた宝石は。
すまない、。
お前じゃない。
だから、だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『契約破棄ってコトで』
ターゲットは絞られた。
生きるか、死ぬかのDEATH GAME。
どちらが一瞬を制するか。
さぁ、甘美ナ世界へと誘う扉を開き、そして堕ちよう。
05.3.21
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