ぼ く ら の 、
※メロギア夫婦パロ
眩い朝日が、寝室を照らす。メローネは、ゆるりと目を覚ました。隣には、ギアッチョが眠っている。
なにも身にまとっていないギアッチョの鎖骨付近には、昨晩、メローネが残した紅い華が散りばめられている。無意識のうちに握られている左手薬指には、シンプルなシルバーリングがはめられていた。愛おしげにそれを指でなぞり、ギアッチョの唇に、ちゅ、と軽いキスを送る。ぴくりと彼は身じろぎしたが、目を覚ますことはなく、相変わらず夢の世界へ行ったままだった。
ギアッチョを起こさないように、そっとベッドから抜け出したメローネは、そのままキッチンへ向かう。寝起きの珈琲を淹れるつもりだった。しかし、廊下に続くドアを開けたとき、異変に気付く。
「……赤ん坊の、泣き声?」
メローネたちの寝室は、2階建ての家の、階段を上った一番奥の部屋にある。そこからでも聞こえてくる、赤ん坊の大きな泣き声。不審に思いながら階段を下り、声に近付いていく。玄関前まで行き、そこでぴたりと歩みを止める。どうやら、このドアを隔てた所で、赤ん坊は泣いているようだった。しかも、明らかに2人の声がする。面倒事に巻き込まれたくないと思いながらも、自宅の前で泣き喚かれたままでは、あらぬ疑いをかけられてしまうかもしれない。面倒な気持ち半分、好奇心半分で、メローネは玄関のドアを開けた。すると、そこには薄いシーツでくるまれ、大きな声を上げて泣き続ける赤ん坊が、2人いた。
「嘘だろ」
思わず、そう口にする。大きな声で泣き続ける赤ん坊2人は、メローネとギアッチョに瓜二つの容姿をしていのだ。
「ギ……ギアッチョオオオオオ!!」
近所迷惑甚だしい大声を出し、赤ん坊を抱えて寝室まで走る。勢いよくドアを開けると、不機嫌そうな表情のギアッチョが、じろりとメローネを睨んでいた。
「うるっせー……。俺はまだ眠ィんだよ……」
「今は睡眠を優先してる場合じゃないんだ。聞いてくれ。俺たちに、子供ができた」
「あ? まーたオメェはしょうもない嘘を……って、うおおおお!? なんだよ、その赤ん坊!」
ずい、と差し出された赤ん坊を見て、ギアッチョの眠気は吹き飛んだようだ。何度か瞬きを繰り返し、メガネをかける。先程まで大泣きしていた赤ん坊たちは、メローネとギアッチョの顔を見て、楽しそうに笑っていた。
赤ん坊たちは、まだ生後3カ月前後といったところだろうか。髪形、瞳の色はギアッチョとメローネをそのまま子供にしたかのようにそっくりだ。あぶ、と意味のなさない音を発しながら、今の状況についていけていないギアッチョへと、手を伸ばす。
「なん、だよ。コレ。俺になにをしろってんだよ」
「うーん。多分、抱っこして欲しいんじゃないか?」
「お、俺わかんねぇよ! 赤ん坊なんて触ったことねェし……」
「あぁ、そっか。えっと、ほら、こうやってやるんだよ」
ひょい、とギアッチョに似た赤ん坊を、メローネは抱き上げた。途端に上機嫌になり、きゃっきゃと笑い出す赤ん坊と、それを見てにこりと微笑むメローネを見て、ギアッチョは驚きの声を漏らす。
「お前、慣れてるのな」
「んー。まぁね。俺のスタンドも、こういうときあったし」
「あぁ、それでか」
「うん。さ、ギアッチョもやってみな? まずは首の下と、股の間に手を入れて……」
メローネの的確な指導を元に、ギアッチョは恐る恐る、メローネに似た赤ん坊を横抱きにする。
まだ首のすわっていない赤ん坊の頭部は、時折ぐらぐらと動き、ギアッチョの不安を煽る。メローネのように頬笑みかけてやることもできず、次になにをすればいいのかもわからず、ギアッチョはただ固まっていた。腕の中にいる赤ん坊は、メローネと瓜二つの、綺麗なエメラルドグリーンの瞳を瞬かせて、ギアッチョを見やる。すると、ぱちり、と目が合った。その瞬間、顔を真っ赤にして、先程と同じように大きな声で泣き始めてしまった。
「えっ、な、なんだよ! なんで急に泣きだしてんだよ!?」
「ギアッチョ、落ち着いて。マンマが緊張してたら、それが赤ちゃんにも伝わるぜ」
「誰がマンマだ! あー、もう! 俺わかんねぇ、パス!」
メローネに赤ん坊を手渡し、頭をがしがしと掻く。溜息をつきながら、ずれ落ちてしまったメガネをかけ直す。
「―――で、どうすんだよ。朝起きたら俺らにそっくりな赤ん坊が玄関先にいました、なんてどう考えてもおかしいだろ。お前、何したんだよ」
「えっ、俺が原因? 心当たりはないなぁ……あ、」
「なんかあんのか」
「いや……俺、昨日ギアッチョの中に出しちまったし、それでかなって。あぁ、勿論処理はしてあるぜ」
「オメーはアホかあああああ!!」
へらへらとにやけた笑みを隠さずそう言い放ったメローネの顔に、拳を叩きこむつもりのギアッチョだったが、その腕の中にいる赤ん坊を見て、寸でのところで拳を下ろした。
ギアッチョの大きな声に驚いたのか、2人の赤ん坊は身体を大きく跳ねさせ、顔をくしゃくしゃに歪め始める。
―――ヤバイ。
そう思ったときには時既に遅く、2人の赤ん坊は大音量で泣き始めた。
「あーぁ。ギアッチョが大きな声出すから」
「オメーがいきなり変なこと言うからだろ!」
「人のせいかよ。そいつは良くないぜ」
まだなにか言いたそうなギアッチョをやんわりと制し、メローネは泣き続ける赤ん坊たちを自分たちのベッドに横たわらせ、一定のリズムでその身体を優しく撫でる。すると、段々と泣き声は小さくなり、赤ん坊たちは再び笑顔を取り戻した。
ふぅ、と一息つき、ギアッチョは一度、寝室を出てキッチンへ向かった。
アンティーク調の食器棚は、メローネの趣味で買われたものだ。そこから、マグカップを2つ取り出し、手慣れた動作で珈琲を淹れていく。家事全般は苦手なギアッチョだが、珈琲の淹れ方だけは、しつこくメローネに叩きこまれていた。その甲斐あってか、珈琲だけは上手く淹れることができるのだ。
砂糖もミルクも入れていない、ブラック珈琲を寝室まで運ぶ。寝起きの珈琲は、2人ともブラック珈琲と決めていた。
寝室のドアを開け、手に持っているマグカップを、サイドテーブルに置く。2人の赤ん坊は、落ち着いたのか、すやすやと寝息を立てていた。
「ふふ、寝ちまったよ。それにしても、ほんと俺らにそっくりだなぁ」
「最初はなんの冗談かと思ったぜ……。でも、本物、なんだよな。あんなに柔らかくて、手も小さくて、でも、あったかかった。ふやふやしてた」
初めて触れた赤ん坊の体温に、ギアッチョは自分の胸の中に、暖かいものが溢れていくのを感じていた。手の中に残る温もりを、逃さないように、きゅっと手を握りしめる。そんなギアッチョを見て、メローネは、笑う。そして、先程から考えていたことを言う為に、口を開いた。
「なぁ、ギアッチョ。この赤ん坊たち、俺たちで引き取らないか? 俺たちの家の前にいたんだ。何か運命を感じるぜ」
「運命だぁ? はっ、お前らしいっちゃあお前らしいけどよォ。……まぁ、いいんじゃねぇの。……子供、欲しかったし」
最後の言葉は消え入るように小さくなっていたが、しっかりとメローネの耳に届いた。耳まで赤くさせて俯くギアッチョを、メローネはそっと抱きしめる。ぴく、と身体が跳ねたが、そのうち、そろりとメローネの背に腕を回すことで、先程のメローネの言葉に肯定を示す。それだけで、メローネは溢れる笑みを堪え切れなかった。
「グラッツェ。ギアッチョ」
「ん、」
ちゅ、と軽いキスを送ると、ギアッチョは幸せそうに目を細める。ギアッチョのこの表情が、メローネはとても好きだった。何度かキスを繰り返し、そっと身体を離す。彼の頭を優しく撫で、すやすやと眠ったままの赤ん坊たちを見る。
「名前、決めないとなぁ。俺、候補があるんだけど、聞いてくれるか?」
「おう」
「ギアッチョに似ている子が、『ちびぎあ』で、俺に似ている子が『ちびめろ』っていうのはどうだ? なかなか自信あるぜ」
「……は?」
ギアッチョの口がぽかんと開く。その反応に、メローネは首を傾げた。
「なんだよ、その反応。俺、絶対いいと思うぜ」
「いや……なんていうか、お前、ネーミングセンス皆無なのな……」
「じゃあギアッチョはなにか候補があるのか?」
「ない、けどよ……。ま、いいんじゃねぇの。わかりやすいし」
「そう。じゃあそれで決定な。これで、家族が一気に2人も増えたな。パパ、頑張っちゃうぜ」
言って、淹れっぱなしだった珈琲を飲みほした。舌に走る苦味が心地いい。液体が胃に落ちて行く感覚を楽しみながら、上機嫌に鼻歌を歌う。
相変わらず眠り続ける赤ん坊たちの名前は、『ちびめろ』と『ちびぎあ』に決定された。ギアッチョは些か不満を感じていたようだったが、その名前を何度か口にして繰り返すことによって、いつの間にか慣れているようだった。
「さぁ、善は急げだ。とりあえず、ちびたちの生活用品を買い揃えようぜ。大丈夫だ、金はある」
「別に金の心配なんざしちゃいねーよ。ただ、俺にちゃんと、ちびたちの世話、できるのかなって思ってよ」
意気込むメローネとは逆に、ギアッチョはこれからのことについて不安を感じていた。
ある日突然、自宅の前に双子の赤ん坊がいて、それを引き取ってこれから生活しようというのだ。今までは2人だけだった空間に、新しい家族が増えた。しかもそれは、意図していたことではない。
ギアッチョは、子供が欲しかった。しかしそれは、不可能だということもわかっていた。しかし今、こうして自分たちにそっくりな赤ん坊―――ちびめろと、ちびぎあ―――が、現れたのだ。それが一体どういう経緯でこうなったのかは想像もつかないが、何もできない赤ん坊を捨て置くということは、できない。メローネも乗り気である以上、一度乗りかけた船を降りるなんてことは、ギアッチョの性格上、あり得なかった。
しかしそれでも、不安は消えない。ギアッチョは、自分自身に不安を感じているのだ。下を向いたまま黙ってしまったギアッチョの頭を、メローネの手が優しく撫でる。時折、ギアッチョの特徴的な巻き毛を、愛おしそうに指に絡めながら、メローネは言った。
「大丈夫。ギアッチョは、ちゃんとちびたちの面倒見てあげられるって。今日から二児のマンマになるんだぜ? 不安がってたら、ちびたちが怯えちまう。俺がついてる。な、ギアッチョ」
その優しい声に、ギアッチョは視界が歪んでいくのを感じた。違う、これは涙なんかじゃない。そう自分自身に言い聞かせても、一度壊れてしまった涙腺を修復することは、難しい。寝間着の袖で涙を拭っていると、その目尻に、メローネが優しくキスをする。
「ギアッチョ、ギアッチョ。あぁ、泣くなよ。可愛いな」
「うるせぇ。可愛くねぇよ」
「俺からしたら、ディ・モールト可愛い奥さんだ」
「お、奥さんって、ばか……」
顔を真っ赤にさせて、ギアッチョは口をぱくぱくと開閉させた。それを愛おしげに見つめ、メローネは笑う。
「これから先、不安になることもあるだろうけどよ、そんなこと、今は考えなくていい。そのときになったら、迷えばいい。だから今は、家族が増えた喜びを祝おうぜ。な?」
「……お前ってほんと、よくそんなことぽんぽん言えるよな……。聞いてるこっちが恥ずかしいぜ」
「ふふ、嬉しいくせに」
「誰がだよ。ばぁか」
軽くメローネの腹に拳を入れるギアッチョに、先程までの不安は感じられなかった。メローネの言葉に納得したのだろう。とにかく今は、目の前のことだけを見ることにしたようだった。
「ん。よし、大丈夫。俺、頑張るわ。サンキュな、メローネ」
「どういたしまして。さ、買い物行こうか。俺がちびたちおんぶするから、車出せるか?」
「任せろよ。ていうか俺の車は俺以外には触らせねぇ」
車のキーを指で回しながら、ギアッチョは笑った。寝間着からラフな服装に着替え、涎を垂らしながら幸せそうに眠るちびたちをかかえ、メローネとギアッチョは、買い出しに出て行った。
*
「―――重いッ!」
帰宅して、ギアッチョは開口一発目にそう吠えた。両手には千切れんばかりに品物が入った買い物袋を抱え、背中には、先程車の中で目を覚まし、ぐずりだしたちびめろを背負っていた。
「いやー、まさかあのタイミングで起きるとは思わなかったなぁ。ちびめろの声で、ちびぎあまで起きて泣きだしちまったし」
「鼓膜破れるかと思ったぜ……。今はだいぶ落ち着いてくれたからいいけどよォ〜。腹でも減ってんのか?」
「あぁ、それもあるかもしれねぇな。とりえあずミルク作るからお湯沸かしてくる」
「おう、頼む。あー! 泣くなって! 今メローネが飯作ってくれっから!」
「ちびたちに言ったって、わかんないだろ……」
びえええ、と再び大声で泣き出したちびたちを抱え、文句を言いつつも、ギアッチョは寝室へ足を運ぶ。残された荷物を持ち、メローネはキッチンへ向かった。
適温に熱したミルクを哺乳瓶に入れ、寝室へ足を踏み入れたメローネは、ちびたちを両腕に抱え、必死であやしているギアッチョに、哺乳瓶を1つ手渡した。
「俺、ミルクのやりかたなんてわかんねぇよ」
「俺が手本見せるから、真似してみな」
そう言って、メローネはちびぎあを膝の上に乗せ、その小さな口に、哺乳瓶の乳首を差し入れた。こくん、こくん、と小さな口が動く。哺乳瓶の中のミルクが波打ち、少しずつ量が減っていく。時折哺乳瓶を口から外し、にこにこと笑いながらあぶあぶとはしゃぐちびぎあに、赤ちゃん言葉でそれを返す。すると、ちびぎあは、更に顔をゆるませて、笑った。
その光景をただ黙って見つめていたギアッチョだったが、ちびぎあがミルクを飲んでいるのを見て羨ましくなったのか、再びちびめろがぐずりだしたことに慌て、先程のメローネを思い出しながら、同じように膝の上に乗せた。哺乳瓶の乳首を口に近付けるが、ちびめろはそれを飲もうとせず、ギアッチョに向かって、ぷくぷくとした可愛らしい腕を伸ばす。あ、あ、と意味のなさない音を発しながら、ちびめろはなにかをギアッチョに訴えているようだった。
「なぁメローネ、どうしよう。ちびめろが、ミルク飲んでくれねぇ……」
「うーん……。お腹は空いていると思うんだがなぁ。ひょっとして、ミルクが嫌なのか?」
「赤ん坊なんてミルクしか飲めねぇだろ。どうしろってんだよ……」
意気消沈してしまったギアッチョを見ながら、メローネは考えを巡らせる。腕の中のちびぎあは、満腹になったのか、哺乳瓶の中にミルクが半分程残っているのにも関わらず、うとうとし始めていた。それを見たメローネは、背中をさすってげっぷを出させる。けぷ、と空気がちびぎあの口から漏れた。今にも目を閉じそうなちびぎあをベッドに寝かせ、ギアッチョへ向き直る。
「うーん。ちびぎあはいい子に飲んだのになぁ。なにが気に入らないんだか……」
「お前に似てワガママなんじゃねぇの?」
「失礼な。誰がワガママなんだよ」
「あん? オメーしかいねぇだろが」
ぶすくれてしまったギアッチョ。それでも、腕の中にはちびめろを抱えたままだ。どうにかしてミルクを飲んでもらいたいのだろう。
そこまで考えて、メローネの頭の中にひとつの方法が思い浮かんだ。
「なぁ、もしかしてだけど、母乳だったら飲むんじゃないか? よし、ギアッチョ、」
「言っとくけど、んなもん出ねェかんな! 馬鹿なこと言ってねぇで、なんか考えろよ!」
「いや、俺は至って真剣だ。ちょっと試したいことがある。いいか?」
「なんだよ……。まぁ、ちびめろがちゃんと飲んでくれるんだったら、なんでもいいけどよォ……」
「よし、じゃあ早速。ベイビィ・フェイス!」
「お、おい!?」
メローネの声と同時に、大きなパソコンが現れる。手足が生えているそれは、メローネのスタンドだ。まるで意思を持っているかのように動くそれは、ギアッチョの身体へ腕を巻きつけた。
「ひぃ! き、気持ち悪ィ! 早く外せ!」
「ん、もうちょい我慢して」
カタカタとキーボードを打ちながら、メローネは言った。画面を埋め尽くすほどの量の文字を売ったあと、「1」と書かれたキーをポン、と押す。すると、ギアッチョの身体に巻きついていた腕がほどけ、姿を消した。
「いきなり何すんだ馬鹿! 見ろ、ちびめろがビビってんじゃねぇか!」
「うん、びびってるってことは、ちびめろもスタンド使いの素質があるってことだな。まぁ、それは今はいいんだ。ギアッチョ、ちょっと胸出して」
「おい、頭大丈夫か」
「俺は常に正常だ」
「嘘つけボケ」
「いいから。いきなりで悪かったけど、ちょっとギアッチョの身体の構造をいじくったんだよ。手っとり早く言っちまうと、母乳が出るようにしたんだ。ちょっと試してみろって」
ギアッチョは言葉を失った。こいつは人の身体を使ってなんてことをしてくれたんだ。怒鳴ってやろうと大きく息を吸い込むが、自分の腕の中で、ギアッチョを見つめる、ちびめろと目が合う。大きなエメラルドグリーンの瞳は、薄い涙の膜ができていて、あと少しでぽろりと零れ落ちそうだった。そんなちびめろを見てしまったら、怒鳴る気など失せていた。
期待の眼差しを向けるメローネに背を向け、着ていたパーカーをまくる。膨らみも何もない、平坦な胸の乳首に、ちびめろの口をおそるおそる近付ける。すると、ちびめろは何の迷いもなく、乳首を口に含み、ちう、と吸い始めたのだ。
「え? え? 嘘、だろ……。お前、まじかよ……」
「おぉ、成功か。いやー、いつか試そうと思ってたんだけどよ、思ったより早く機会があって良かったぜ。ちびめろも、美味そうに飲んでるし」
「……お前、ほんと頭オカシイな」
「今更だろ。ま、これで問題解決だな。よかったよかった」
「よくねぇ……。俺、男だぞ……」
「でも、ちびたちのマンマだ。マンマが子供におっぱいを上げるのは自然の摂理だ」
「何言ってやがる。ていうかよォ、まず自分で試そうとは思わなかったのか」
「わかってないな、ギアッチョ。ギアッチョが子供におっぱいをあげているという図が、いいんじゃあないか! 俺がやっても、それはただ気持ちが悪いだけだ。子供たちはマンマのおっぱいを飲んで、満腹になる。俺はそんな光景を見て、幸せな気持ちになる。一石二鳥じゃあないか」
「ちびたちがいなかったら、今ここで確実にテメェの頭をぶち割ってたぞ、俺は」
うなだれるギアッチョの胸元では、ちびめろが無心になって母乳を飲んでいた。常識とはかけ離れたその光景に、ギアッチョは頭を抱え、叫びたくなる。しかし、自分の腕の中にいるこの小さな命を感じると、不思議と笑みがこぼれてくるのも事実だった。
「ギ、ギアッチョ……! 今のその表情、ベネ! ちょっとカメラ持ってくるからそのまま! そのままの顔で、待っててくれ!」
「お、おいメローネ!?」
片手で鼻を抑えながら、ものすごいスピードで寝室を出て行ったメローネに唖然とする。気付けば、ちびめろは充分に母乳を飲んだようで、ちびぎあと同じようにうとうとし始めていた。先程のメローネが、ちびぎあにしていたように、背中を軽く叩いてやる。すると、母乳と一緒に飲み込んだ空気が、げっぷとなって吐き出された。ほぅ、と安心し、ちびぎあと同じベッドに寝かせてやり、ブランケットをかける。あっという間に眠ってしまったちびめろを見て、ギアッチョは笑った。
「本能に忠実だなぁ。ま、誰だって最初はそうだよな。へへ、これから、よろしくな」
そう呟いて、仲良く眠るちびたちの頭を軽く撫でてやると、そっと寝室を後にする。
ドアを閉めると同時に、カメラを持って待ち構えていたメローネの顔面に、思い切り拳を叩きこんだ。それでもカメラを離そうとしないメローネに、今度は強烈な蹴りをお見舞いし、ドスドスと足音荒く、1階のリビングへと向かったのだった。
ふと外を見ると、既に日は沈みかけ、オレンジ色の太陽が顔を出している。まるで夢物語のような1日だったが、腕の中に残るちびたちの感触が、これは現実だということを物語っている。
不安を覚えつつも、これからの生活に期待を馳せているのも事実であった。大きく伸びをして、身体のコリを解す。リビングに飛び込んできたメローネに、今度はクッションを投げつけ、ラリアットを当てる。幸せそうな顔をしたままのメローネに心底呆れながらも、その口角は楽しげに上がっていた。
こうして、メローネとギアッチョの家庭の中に、まるで嵐のように唐突に、家族が増えたのだった。
終
続くかも