理由
殺した。
敵――天人――を殺すのに必死で、夢中で、気付けば周りは死体の山で。
どこを見ても死体、死体、死体―――…つまらないくらいに死体ばっかりだ。
じっと見詰めていると、吐き気がしてきた。
改めて、ああ、俺が殺したんだなって…自覚した。
まだ息は上がり、ついさっきまで相手にしていた天人が、すぐ足元に矢張り死体となって転がっている。
こいつで最後だろうか?少なくとも自分の周りには動けそうな敵は既にいない。
ああ、やっと終わった。今回のは少し疲れたな。
早く寺に戻って風呂沸かしてこの血で汚れた身体をキレイさっぱり洗い流したい。
そういえば、あいつらは……仲間達はどこだろう。
戦の開始と共に散り散りになって戦っていたので、幾人かの仲間と離れてしまうのはわかる。しかし、今まで一緒に戦っていた筈のヅラ…もとい桂もいなくなっているのだ。
一体どこへいったってんだ?周りは横たわった死体で見晴らしは良い。何か動けばすぐわかる。
…変だ。
何だろう、妙な感じがする…
奇妙な違和感を抱きながらもその事はひとまず忘れて、ふと、空を見上げる。
青い空、白い雲。文句無しのムカつくくらい清々しい晴れ空だ。
オイオイ、こんな汚ェ屍の山にその天気は、どう考えてもミスマッチ過ぎるだろうが……世界を作ったっていう神様なんてのは、随分センスが悪いらしい。
俺だったら、こんな最悪な日には雨でも降りそうな曇り空にしてやるけどな……
ただ突っ立っていても仕方が無いので、一応寺の方に向かって歩いてゆく。
刀は…抜いたままでいいや。面倒臭い。
足裏で地を踏みしめる――と言っても殆どの土が死体で埋め尽くされて足の踏み場も無いので、死体を一々どかすのも面倒臭いとその侭死体の上を歩く。
一歩進む度、抜いたままの刀が引きずられ死体の鎧を引っかく嫌な音がした。
……なんかもう、面倒臭いな。何もかもが。
いつまでこんな無駄な戦を続ければいいのだろう。
攘夷に自主的に参加したのは紛れも無い事実。しかし、そんな攘夷の決意も今は曖昧で、正直言ってきつい。というより、辛い。
最初は殺生なんか嫌だと綺麗事を無駄に思い、しかしいざ刀を持って倒すべき敵を目の前にしてみれば、次の瞬間に自分は敵の血にまみれてる。
それも幾度も重なって、気付けば最初の綺麗事はどこへやら、数え切れない位の命を奪ってきていた。
もう、殺したくなんかないのに。それでも別に強制された訳でもなく、平気で冷酷に殺している自分がいる。殺したくてたまらないような、直視したくない自分。
どうしたらこの『病気』を治せるだろうか。
もう、怖くてたまらないんだ。殺す事を既に普通と思っている自分が、いつか仲間も殺すんじゃないだろうかって思って、怖かった。
誰かこの忌まわしい『病気』を治してくれないか。
殺す理由なんて本当は要らなかったんだ。殺してしまえばそれで終わりなんだよ。
しかし駄目なんだ。理由も無しに殺してはいけない。わかっている筈なのに……何で殺すんだよ?欲しいものは何だ?殺す為の理由か?
駄目だ。理由なんてねェよ。
理由なんて、殺す為の理由なんて、そんなのただの屍と同じじゃないか。この周りに無惨に散らばっている屍達と、同じじゃないか―――…
殺した後に残ったのは、殺す為の言い訳と、膨らんでゆく罪悪感だけだった。
全てを最初からやり直せたら、どんなに楽だろう。
敵もいなく悲しみも無かったあの瞬間に戻れたら…どんなに楽だろうか。
少なくとも今よりはマシだ。あの頃はまだ汚れていなかった筈だもの。敵もいないから血を浴びる事も無くて……
待てよ。
敵がいないのならば…奴等とも逢えないじゃないか。
今迄苦楽を共にしてきた仲間達とも、逢えないって事じゃねェか?
もし時を戻して平和なあの頃に戻れたとしても、代わりに仲間を奪われる。
同じ敵がいたからこそ集まった輩共だ。
今まで積み上げてきた、仲間との記憶も、帳消しになる。って事じゃねェか。
………だったら、仲間との歴史を奪われるくらいなら、今の苦しいままの方がいい。
ふと足を止める。
―――『理由なんて、殺す為の理由なんて、』
ならば―――…
殺す為ではなく、護る為の理由ならどうだろう。
何か唯一の護るべきモノを護る為の、唯一の正当な理由……
しかし、目を瞑って胸に手を当てて、よーく考えてみろ。
俺に護るものなんてあったか?無いじゃん。俺に護るべきモノなんて、無かったじゃん。
どうしようか。護るモノが無かったら、理由をつくるのなんて出来っこない。
護るモノ…護るもの…何か無いのか?俺の護りたいモノって…
あった。
「………き!」
「……とき…おい、銀時!起きんか!!」
「うわっ」
耳元で聞こえた急なでかい声に、思わず身を起こす。
…俺…寝てたのか…?
「!…づっ…ヅラ!?」
俺を眠りから引きずり出した張本人は、はぐれたと思っていたヅ…桂だった。
お前今までどこに行ってたんだよ?
そう問う前に、顔面に向け思いっきりアッパーがかけられる。
「うがっ!」
「ヅラじゃねェ桂だって、何遍言ったらわかるんだ!」
「……ここは?」
ヅラのことはさて置き、意識が朦朧としていていまいち自分の今状況が掴めなく、未だ怒り気味のヅラ…じゃなかった桂に訊いた。
「ここは寺だ、銀時。…まさか覚えてないのか?」
寺?
「…何がだよ?」
ヅラはそうか覚えてないのかと呟いてから一度居住まいを直して話し始めた。
ヅラの言ってた話によれば、俺とはあの最後に倒した天人と戦っている時に背後にまわってきた別の天人を相手するのに夢中で、気付いたら離れ離れになっていたらしい。
で、先に戻っていたヅラは俺の居ないのを見て探しに行こうとし、そこに俺がふらふらで帰ってきたと同時に倒れた。
その後俺は二時間ほど寝ていたらしいが、全く記憶が無い。
やはり、あれは夢だったのか……?
「そういえば、他の奴等は?」
ふと思い出し、縁側に足を垂らして休んでいるヅラにまた訊いた。
「ああ…俺がここに来た時寺には誰もいなくて、それから帰ってきた奴もまだいない」
「そうか……」
無事だといいが。
それから、俺とヅラは何時間も待った。
日が暮れ、夜が明けても、ずっと待ち続けていた。
敵にこの場所が見つかったという情報が、この耳に入るまで。
奴等はとうとう、誰一人として帰ってはこなかった……
バサッ
「………ん?」
顔に乗せていたジャンプが落ちて、目が覚める。
昔の夢、か―――…
でも夢の中で夢を見るなんて、と、あの日と重なった気がして妙な悪寒が背中を走った。
(何だよ…ったく……)
この頃は夢なんて滅多に見なかったのに。
(そういやヅラ、今どうしてるかな…)
この頃見てないし。
落ちたジャンプを拾い、欠伸と同時に腕を思いっきり伸ばした。
護りたいモノ、ねぇ―――――
今はもう、悩む事は何も無いだろう?
護りたいモノは、既にもう見えている。
ジリリリリ…
ほら、噂をすれば、あいつからの電話が鳴った。
------------------------------
えーこれは銀土ですよ。(主張)銀桂じゃありません。誰が何と言おうと。…多分。
今回はちょっと白夜叉時代入ってますが(ちょっとていうか殆どだけど)
戦争とか攘夷とか無知に近いんで、そこらへんは大目に見て下さい……
結局、土方さん書けなかった…電話の音だけかよ!
みたいな?(どんなシメ?)
06.12.23 修正・加筆