私は最近常に精神的疲労を感じている。10代女子らしく勉強とか恋愛のことについて悩んでるからではない。まあ、分類するとしたら対人関係だ。ここ何日か、そのことばかり考えている。ある意味で。でも友達に相談しても、信じられないという顔で「何その贅沢な悩み」と一言で片付けられる。ひどい。私は真剣に相談してるのに。もう私には誰も味方がいない。頼れるのは自分だけだ。今日こそは、なんとかせねば。終業のチャイムが鳴った。来る、元凶が。

「せーんっぱい!!!」
「うわっ!!」

背中にものすごい衝撃を感じて顔面からこけそうになった。くそっ、油断した。いつもは叫びながら来るから何らかの準備は出来てたのに…。首を回して、私に覆い被さってる男を睨んだ。

「重い」
「体重掛けてますから」
「何でよ!」
「だってそうしとかないと先輩逃げるでしょ?」
「当たり前だ」
「ははっ、つれねーなあ」

疲労の元凶―もとい、山本武は胡散臭いくらい爽やかに笑った。そう、私の悩みはこれ。ひょんなことで知り合った後輩、山本武の過剰なスキンシップ。私は本当に悩んでるんだ、羨ましいとか言うなそこ!代われるもんなら代わって欲しい。マジで。

「一緒に帰りましょー、先輩」
「無理」
「何でー?」
「このあとたくさん予定あるから」
「じゃあ俺もその予定に同行しまーす」
「やだよ、だって…友達と遊ぶんだもん。あんたがいたらみんな気使うでしょ」
「さっき先輩の友達に誘われましたよ、なんかほっといて一緒に遊ぼーって」

もちろん断りましたけど、とへらりと笑って付け足す顔を力いっぱい殴ってやりたい。私はかよわい女の子だからそんな野蛮なことはしないけど。その代わり思いっきり足を踏んでやったら「いてっ」て言ってやっと離れた。はあ、疲れた。

「先輩の愛が痛いっす」
「安心して、愛なんて1ミリもこもってないから」
「踏んでくれることに愛を感じるんで」
「…何、あんたMなの?」
「まさか」

山本武は会話の内容に全くそぐわないすごくいい笑顔で言った。

「俺に絡まれて超嫌そうに全身で拒否ってくる先輩を見るのが好きなだけですよ」

…駄目だ。想像以上だ、こいつ。頭痛くなってきた。目眩を感じながら鞄を持って歩き出すと、当然のように山本武もついてきた。

「あんた、部活は?」
「今日は休みっす」
「ああそう…」
「どこ行きます?」
「家」
「え、いきなりっすか!?俺は大歓迎ですけど、先輩って意外と大胆なんですね」
「あんたは随分大胆に頭のネジ落としてきたみたいね」

こんなセクハラすれすれな会話も日常茶飯事。ああ、あのとき私がこいつの財布を拾わなければ…!こんなにも自分の良心を呪ったことはない。優しい私がわざわざこいつに財布を届けてやってから、毎日のようにつきまとわれることになった。何か知らないけどこいつは人気があるらしく、嫉妬した女子達に意味不明な嫌がらせを受けたこともある。あれ、そういえば最近ないな…なんでだろ。まあ、ほとんどスルーしてたから別にいいけど。校門を出るまでの生徒たちの目にももう慣れた。付き合ってるとかいう阿呆みたいな噂も流れてるらしいが、みんなの目は節穴か!?私の態度を見て、どうやってそんな発想出来るんだ。

「そういえば先輩」
「…何よ」
「先輩、前になんか嫌がらせ受けてましたよね」
「え…なんで知ってんの」

こいつにはその話は一切してないはずだけど。すると山本武はにこりと笑った。

「俺がちゃんと『やめろ』って言っときましたから」

…山本武ファンの女子達、ご愁傷様。恨むならこいつを恨んで。こいつのことだから、すごい笑顔で考えられないような黒い台詞言ったんだろうな…。女の子達にトラウマが残らないことを祈ります。

「っていうか、どこまでついてくる気?」
「え、先輩が家に誘ってくれたんじゃないですか」
「誘った覚えは全くありません。私は家に帰ってゆっくりするの」
「俺も一緒にゆっくりしますよ」
「ごめん言葉が足りなかった。私は家に帰って一人でゆっくりするの」
「そんなことより、今から俺んち来ません?」

日本語が通じねえ!ああもう何だこいつ、何人だ。宇宙人か。頼むから星に帰ってくれ。ていうか、何でこんなに邪険に扱ってんのにめげないんだろう。そんな不屈の精神必要としてないけど。そもそも、財布届けたときだってそんなにフレンドリーに接したつもりはない。なのに、事情話して、財布渡して、目があった瞬間に「先輩俺と付き合いませんか?」ってこいつ頭おかしいんじゃないか!?野球部のエースだかなんだか知らないけど、超モテてんだから女には不自由しないはずだ。そこでよりによって、何で私。山本武の顔を盗み見ると、目ざとく気付いてへらっと笑ってきた。何かもう全部疑問だけど、いちばん謎なのはこれ。

「あんた、何で私に関わってくるわけ?」

すると山本武はさらりと答えた。




先輩に一目惚れしましたから」








フレーズ



「……あっそう」
「あれ、何か顔赤くないですか?」
「は?何言ってんの」
「えー?もしかして照れてたり?」
「調子乗んな!」
「いてっ」


山本武の頭を軽く叩いて歩調を速めた。こんな顔、こいつにだけは何があっても見せらんない。不覚にも心臓がどきどきしてるなんて、秘密。絶対ひみつ。
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